《神との約束》
先日、通りかかってふと目にした存在の前で、思わず足が止まった。
「そう言えばこれ、何だろう?」
何だもなにも、今日でも人気のある、アメリカ映画の有名なキャラクターなのだが、そう言うことでなく、見れば見る程不思議なので「何者だ」となった。
キティーは猫、ミッキーミニーは鼠。
アンパンマンはアンパンだし、トーマスは機関車。
みんな出所が分かっている。
でも、これは?
猿の様で、モルモットの様で、犬の様で、小人の様でもある。
幾ら見ても、出自が分からない。
そんなテレタビー級の謎存在なのに、何故だか「それは居る」と言う、訳の分からない説得力もある。
興味が湧いて『グレムリン』と続編の『グレムリン2 新種誕生』を連日観賞した。
観れば観る程「思いっきりヌイグルミなのに、それでも何処かに存在しているのではとなる感覚」が残る。
そしてそれは拭い去れない。
本当どっかに居るんじゃないだろうか。
居るなら居るで別に構わないがこの存在にまつわる約束を守らないと、映画に出て来たみんなが体験した様な大混乱が起きる。
1.光に当てないこと。
2.水を飲ませたりかけたりしないこと。
3.真夜中過ぎて食事を与えないこと。
守れないと、フカフカの毛に覆われた愛らしい生き物が、爬虫類の様な鱗と鉤爪を持つ凶暴な小悪魔になるのだ。
モグワイは、グレムリンに成り得る。
この二面性が彼らを、そして映画全体を面白くしている。
じーっと観ていて突然、「あっ、そうか!」となった。
だから、何故かあの場所に足が向いて、わざわざ見たのだ。
本作をご覧になったことがない皆様へのご説明が遅れた。
彼は種族名がモグワイ。
個としての名前はギズモと言う。
変てこな新製品を開発してはトラブルばかりのうっかり親父が、突撃営業で行ったチャイナタウンの不思議な店で、思いつきで購入した。
店を経営する老爺は断ったが、うちは金に困っているからと孫がこっそり、思いつき親父にモグワイを譲渡。
心優しい動物好きの息子ビリーへのクリスマスプレゼントとして親父宅へ。
喜ぶ息子に気を良くした親父はノリでモグワイにギズモと命名。新製品と言う意味である。
売られて来た訳だが、彼は全く悲観していない。
テレビなんかも楽しんだりして、今だけを生きている。
ノリで生きている親父も初めに一応、愛妻と愛息に向けて「モグワイ取扱三原則」を説明し、一家総出でそれなり真面目に取り組む。
だが、ついのうっかりとか、他愛もないことでそれが次々に破られて行く。
水をかけられてしまったギズモは体から毛のボールを排出。
そこから同じ様なモグワイが誕生する。
同じ様なと書いたが、実際はギズモより傍若無人で気ままな集団。
グレムリン化した後は、生みの親であるはずのギズモを集団でいたぶったりする。
ギズモの方でも愛情は持っていない様子で、彼らを冷めた目で見つつ時には退治したりしている。
生んでるのに愛着はないことを発見し、この不思議な関係性から先程の、「あっ、そうか!」と言う気づきが起きた。
モグワイ=童心。
羽目を外して逸脱したのが、グレムリンと言う歪んだ童心、つまり邪心である。
水による分離は、出産ではなく変質からの増殖だったのだ。
光が苦手なのは、童心は日の当たる場所に出る前にある、夢見る時間の存在だから。
水が苦手なのは、幼いままで外から不要な水(知識、情報、財etc)を浴びれば、変質し横道に逸れてしまうから。
そして時間外の栄養は、過剰な貪りを意味する。
童心を自然な状態で活かすには、夢から醒め、我田引水を止め、過剰な貪りも卒業すること。
つまり、目覚めていることが求められる。
覚にあれば童心も「控えめで可愛いちっちゃな生き物」の席に収まるのだ。
全一なので、童心も抹殺する必要はない。
謎の歌を楽しげに発する位の、愛らしく軽い存在になる。
内なる神である虚空との約束を破り、逸脱を繰り返すと、童心は歪んで肥大。
その無邪気な振る舞いは、邪心の破壊や略奪、殺人へとまで変わる。
観ていてビックリしたのは、グレムリン達のとんでもなくえげつない行動。
人のエゴから、照れや体裁、そして常識を抜いて酩酊させると彼らになる。
2になると頭の回るエゴも登場。
乱痴気騒ぎがミュージカルにまで整ったり、情で人間に結婚を迫るのが出て来たり。
まるでエゴ博覧会である。
1ではグレムリン退治に走る最中で、ビリーと良い感じで彼女になりかけているケイトが、
「クリスマスイブに彼女の父親が、
妻と娘を驚かせようとサンタの扮装をして
自宅の煙突に侵入。
足を滑らし首の骨を折ってそのままとなり、
彼の帰りを待つ家族が寒さから
暖炉に火を入れた所で悲しい再会に」
と言う、衝撃的な過去を告白する場面がある。
だから彼女はクリスマスが嫌いなのだと言う。
この映画、どうにも親父がうっかりする。
不覚の分割意識が取る行動が、どれだけ周囲を騒がせるか。
思いつき親父のクリスマスプレゼントと言い、「良かれが生み出す思わぬ混乱」の様を上手に描いている。
“グレムリン”とは飛行機乗り達の間で、摩訶不思議な機器の故障や誤作動が起きた時に「妖が悪さをする」と噂されたことで出来た言葉。
外に妖物の幻想を作って戦々恐々となるのでなく、内側に増殖して居ないかを確認する。
それが大人への、確かな一歩となる。
童心を、拗らせると高くつく。
(2018/12/13)