殊に重要な点のみに絞りましたが、それでも驚きの長さです。
誠にあいすみませんが、週末の手が空かれた時に、適当に区切る等されて、各自いい塩梅でご覧下さい。
では記事へ。
《共に栄える》
映画『ロッキー』の冒頭、ロッキーより先に、聖体と杯を持つイエス・キリストの姿が登場する。
聖体と杯は「真の受肉」、つまり変容の象徴。
ご承知の通り、この変容は分割意識と御神体との結魂によって成される。
ロッキーが恋をしたのは、ペットショップで働く、内気で人見知りなエイドリアン。
彼女は、世間で言う「モテるタイプの女性」として描かれてはいない。
そんなことお構いなしで、毎日店を訪ねては彼女に一生懸命「面白いこと」を言い続けるロッキー。
その時その時、出来る精一杯で、エイドリアンも彼に向き合い始めている。
とは言え、細か過ぎて伝わらない変化を「無反応」と感じたロッキーは、進展の無いことをエイドリアンの兄ポーリーに相談する。
ポーリーが思いついたのが「明日は感謝祭だし、家に来て三人で食事をしよう」と言う案。
自分が訪ねることを伝えてくれとロッキーは言ったのだが、適当なポーリーは案の定何も言っていなかった。
来るなんて聞いてないとか、帰る帰らないの悶着の後、煮え切らない妹にキレたポーリーが出した答が、
感謝祭の食卓に用意していた七面鳥を窓から投げ捨てる。
で、もう晩飯は無いから二人で出掛けて食べて来いと、自分用にちゃっかり鳥の足一本もいで取っといたのを食べながら、言い放つ。
この仕打ちにショックを受けたエイドリアン。
兄への怒りが後押しし、彼女はロッキーと感謝祭デートに出掛ける。
出がけに「彼女は何が好きなんだ」と、ロッキーがポーリーに聞く。返って来たのは「スケート」の一言。
スケート場は感謝祭の為に早い時間で閉まっていたが、掃除する為に残っていた男と交渉し、10分間だけ滑れることになる。
他に人は居ないので、勿論貸し切り。滑るエイドリアンの横で、ロッキーは靴のまま並走する。
このスケートデートにロッキーと言う男の素敵さが詰まっている。
ロッキーによれば、スケートは踝に負担が掛かり、ボクサーにとってはよろしくないらしい。
だから彼自身は15歳でボクシングを始めてからは、滑りを楽しむことが出来ない。
ところがそのことが、
デートでスケートを採用しない理由に、ならない。
ロッキーは只、エイドリアンが楽しめることをしたかった。
彼にとっての楽しいは、「彼女と一緒に居ること」だから、後は何でも良かった訳だ。
だが、そこから起きたことを追うと
無条件で彼女の好きなことを採用し楽しむロッキーにエイドリアンの心が開いて行く
↓
滑る中でバランスを崩したエイドリアンをロッキーが支えて急接近
↓
10分しか滑らなかったので時間余る
↓
歩いて話しながら更に打ち解け、躊躇ったがエイドリアンはロッキーと共に彼の家へ。
ここまでの算段、どんなデート軍師でもそうは出来ない。
あらゆる画策を超えて行く素直の力が、感謝祭での運びに、鮮やかに現われている。
突然のアクシデントと無条件の受容を経て結ばれたロッキーとエイドリアンに、真価の発揮が揃って巻き起こる。
ロッキーには大舞台に立つチャンスが舞い込む。
その横で、エイドリアンにも又、目を見張る変化が現われる。
「恋する女はきれいさ」
と言う歌のフレーズがあったがまさにそんな感じで、ロッキーに恋をして、エイドリアンの魅力はどんどん花開いて行く。
表情もそうだが、ファッションにもよく表われている。
初め彼女の服は、外向きには灰色を中心とした寒色系。家庭ではやわらかい暖色系。
ロッキーと付き合いだしてからは、淡いピンクや濃いオレンジ、そして赤が現われる。
ついでに露出も増える。
開かれた心を表す様に胸元も開き、振舞いも堂々として、僻んだポーリーが癇癪を起こしても応戦出来る強さが育っている。
彼女が怒りや悲しみを露にしても、受け止めて愛し続けるロッキーの存在が、新しいエイドリアンを育てたのだ。
育った雛は巣立ちをする。
ここで再び、身勝手な兄のナイス癇癪アシストが炸裂する。
よりにもよってクリスマスの晩。
酔って帰って来たポーリーは、彼がロッキーを使って金儲けしようとしていると、ロッキーと妹が話題にしている現場に遭遇。
図星を指され、激怒したポーリー。
クリスマスリースを腕に通したまんまの変な格好で、妹とその恋人を振りかざしたバットで脅し、家財を叩き壊す。
「恩知らず」と罵られ、内気だったエイドリアンが初めて、兄にこれまで言えなかった本音を叫ぶ。
家事の一切は自分がして来たこと。
面倒を見ていたのはむしろ自分の方であること。
なのに見下され、馬鹿にされて来たこと。
そんなのもう冗談じゃないこと。
それに対しポーリーは、家から出ずにババアになっちまうと嘆いていた妹を、彼氏が出来たら逆に「淫売」呼ばわり。
妹はショックのあまり、再び部屋に籠ってしまう。
さすがにこの暴言にはロッキーも怒る。
本気で押さえつけるとポーリーはみるみる弱って、泣き言を言い始める。
ろくでもないし、いい大人がすることでもないし、全くもって「どうしようもない」動きなのだが、これが
内気な女を巣立ちさせる切っ掛けになった。
エイドリアンは、家を出ることを決め、ロッキーと共に暮らし始める。
この一連の動きでは、ロッキーは彼女を支える役に回っている。
そして、彼が挑んだ闘いの支えにはエイドリアンがなった。
鍛錬が功を奏し波に乗って来たからでもあるが、一人で暮らす部屋から走りに出る時と、彼女と暮らし始めてからでは、ロッキーの調子がまるで違う。
彼女が最も大きな支えとなったのは、決戦前夜。
黙々と為すべきことを成し続けたロッキーが唯一、弱気を見せた時である。
帰って来たロッキーは寝ていた彼女の隣に横たわり、背中を預ける。
「勝てないよ」と言う彼に、自分の意見を言ったりむやみに励ましたりせず、どうしたいのかを聞いて、答が出るのに任せるエイドリアン。
「分からない」と言いつつロッキーからは素直な気持ちが溢れ出し、それを彼女は聴き続ける。
「負けてもどうってことない」「脳天が割れてもいいさ」、そしてロッキーは自身をクズみたいな男だったと言う。
エイドリアンはこれには、そんなこと言わないでと返すが、ロッキーはそれを制して確かに取るに足らないもの(NOBODY)だったんだと改めて言う。
ここは過去形であることと、
NOBODY
に注目したい。
ロッキーと言う、ゴロツキまがいの暮らしをしていた分割意識は、エイドリアンと言う、伴侶である御神体と出会い結ばれた。
NO・BODYではなくなった、つまり真の受肉が為されたことの証をたてる場が、明日の試合なのである。
背後からエイドリアンの愛に包まれ、中立に自らと向き合いやがて、必要なのは敵を倒すことではなく、倒れずに最後まで立っていることなのだと、ロッキーは気づく。
その気づきは、ロッキーが自身で答を出すまで寄り添い続けた、エイドリアンが居てこそ起きたものだ。
試合当日、控室に訪れたエイドリアンは白のシャツに黒のパンツスーツ。
ロッキーの口から出た「脳天が割れてもいいさ」の言葉を、彼女は真剣に聴いた。
命を落とすかも知れない場所に彼が向かうなら、彼女も心は共にリングにあり、敗れれば骨を拾って帰る。
それ程の真剣さを秘めた黒の上下は、彼女の本気が分かる出で立ちである。
そのスーツに合わせるには意外だが、ロッキーが愛した彼女の知性と、彼が目覚めさせた女としての輝きを表現したのが、あのオレンジのベレー帽であるなら、余りにいじらしいチョイスと言える。
試合が終わる間際、彼女は控室を出て会場に現われる。
勝ったの負けたのかも分からない大歓声の中、彼女を呼ぶ彼の声だけが聴き取れる。
その瞬間、彼女はリングを目指し、帽子は吹っ飛ぶ。
荒療治に次ぐ荒療治の、ポーリー式独立支援法だったが、ここでようやく兄は妹に素晴らしくスマートなアシストを決める。
丁度ロッキーが居るリングに自分を上げろと警備員に向かってゴネていたポーリー。
駆けつけたエイドリアンが呼ぶと、警備にいちゃもんつけながら素知らぬ振りで足下のロープを広げて妹を通すのだ。
そして、映画の最後を締めくくるに相応しい大きな変化が起きる。
ロッキーが、試合を受けた時のインタビューでエイドリアンの名を叫び、その様子を一緒にテレビで観た夜、彼女に「自分は何でも言える」と告げるシーンがある。
それはつまり、彼女の名を呼ぶだけでなく、「愛していると表明出来る」と言うことである。
四方を観衆に囲まれたリングの上から再び、彼女の名を叫ぶロッキー。 傍に辿り着いたエイドリアンは、「愛してる!」と叫んだ。
一杯一杯で語彙力が吹き飛んだだけで、ロッキーも愛を告げている。
「エイドリアン(=愛してる)!」
何なら、彼にとっては彼女と愛とがもう同じものだ。
初めは、ロッキーと目を合わすことすら出来なかったエイドリアン。
か細い声の微かな返事が、次第に確かなものに変わり、ついには誰の前でも堂々と宣言出来る愛となった。
どれ程の分割意識が、ちゃんと御神体の微かな声を聴いているだろうか。
不覚に鈍った感覚では尚更その声は遠く、根気良く、真摯に聴き続ける必要がある。
ロッキーになるなら、即刻エイドリアンの話を聴くのだ。
『ロッキー』は、ロッキーの物語であると同時に、エイドリアンの物語でもある。
進化変容を成す時、分割意識と御神体の双方に真価の発揮が起こる。
その姿を鮮やかに描いた、男と女の変容物語である。
愛を、明らかに。
(2018/6/28)
6月のふろく
《愛の宣誓カード》
プリントして切り抜き、御神体への愛の誓いを、自由にお書き下さい。
更に面白い楽しみ方としては、適当な所に穴を開けて紐を通し、七夕の短冊に混ぜて吊るしてみると、牽牛と織女に向けても誓えます。