《力辿れば》
「何てこった」
「ちから」について調べ始めた当初、とても驚いたことがある。それは、
力について、力を使って説明している部分がかなりあること。
平成時代初期に発行された、角川古語大辞典で調べた時に起きたことだが、全く驚いた。
辞典とは「〇は、~~~~~である」と対象〇について他の表現を使い、分かり易く説明するものだと認識していた。
まさか「〇とは~の〇である」などと言われるとは、思っても見ない。
こう書いただけだと「そんな馬鹿なことが!」となられるかも知れないので以下に引用してみる。
“ちから【力】名詞 事を実行し、実現するための能力。”
「???」と、ならないだろうか。
米を調べて「美味しく栄養になるおこめのこと」なんて出て来たらびっくりする。
尤も、力についての説明はこれだけで終わらず、後にこう続く。
“他の人間の存在態や、環境を変化させる源泉をいう。”
どうやら力は、何かの源泉。
何の源泉かは書かれていなかった。
この辞典では、ここから9つに分けて力を説明する詳しい内容を挙げている。
①肉体の強さ。体力。腕力。
②生命を維持する強さ。生命力。
③事を遂行する強さ。また、精神力。
㋑事をなそうとする意志の強さ。気力。
㋺事を巧みになすことの出来る強さ。能力。
㋩事を展開し、なし続ける強さ。活力。持続力。
④集団が機能を果たす強さ。また、組織や構成員を掌握する強さ。統率力。
⑤神仏が法を現す強さ。
⑥自然物・機械などの強さ。物理力。
⑦財産の持つ強さ。財力。
⑧何かの行為によってもたらされる効果。
㋑過去の行為や習得した技芸による効果。恩恵。また、他の人のなしたことのもたらす効果。功績。
㋺特に、信仰による恩恵。功徳。
㋩食物の摂取によりもたらされる効果。腹持ち。
㊁ことば・文字のもたらす効果。
⑨頼りとし、支えとする物や人。よりどころ。
③と⑧では更に細かく分かれており、実に便利に扱われている。
人間が力と言い表すことに、長年親しんで来たのが見て取れる。
これらを眺めて、人がどんな時に「力」と言う表現を使用するのかは大体分かった。
力って何なのかについては、どんな言葉で置き換えられているのかに注目すると少しずつ見えて来る。
上の①~⑧では「源泉」「強さ」「効果」が、説明の中で力に対する置き換えとして用いられている。
「効果」があった先の結果としての「恩恵」「功績」、更には「功徳」「腹持ち」等も意味に含まれるが、流れとしては効果が先。
効果が結果を生む。
結果と言う果実を割ったら、更に小さな効果と言う果実があり、それを割ると源泉と言う湧き出し口が現れる。
この口から湧き出しているものが「ちから」なはずだが、それは一体?
そして⑨だけ「頼り」「支え」「物」「人」「よりどころ」と、固定されたものが並んでいるのは何故なのか?
次回は別の辞典を使い、更に丁寧に観察してみる。
力辿れば、謎の源泉。
(2024/1/11)