《やばいばい》
プラトンが人間の魂を3つの性質に分ける考え方として示した、魂の三分説。
それによると魂は、
理知
気概
欲望
の3つから成る構成を持つと言う。
著書『国家』の中で、理知は人間、気概はライオン、欲望は多頭の怪物に喩えられる。
いいもんを人間にするパターン。
対比に神を持ち出すと人間はわるいもんポジションに納まりがちだが、ここでは腕力ではない強さ担当なのか、人が理知の席に着いている。
ライオンを気概とするのなら、理知も何かしら動物で例えた方がバランスが取れそうな気もするが、人間も動物の一種と言うことなら、間違いではない。
それにしてもこの二つに比べて、欲望だけまとまり切らずに何か頭多い怪物、と言った曖昧なものになっているのが面白い。
欲望を説明する時、一筋縄では行かないと言うことだろうか。
魂と欲望について意識を向けていたからかどうかは分からないが、先日電車の中で面白いものを見た。
最初は見たと言うより、聞こえて来た。
女性だか男性だかぱっと聞いた感じではちょっと判別がつかなかった、高い声。
それでキャッキャと話す内容の10秒に1回程度、「下ネタ」と言う単語が混ざる。
本当に、実に沢山「下ネタ」「下ネタ」と連呼していた。
おそらくつい先日までランドセルを背負っていた位なお年頃の、男性3人組。
彼らの中に、それこそ下ネタの神に魅入られたかの様に夢中で喋っている方が居た。
仕方なしと言った感じで聞き役を務めていた他の2人が、声が大きいと注意しても聞かないし、別の話題に軌道修正しようとしても、どうしても下ネタ街道を走りたがる。
電車の中で、彼だけ更に欲望という名の電車に乗っている感じ。器用なことだが何処へ行こうとしているのだろうか。
このご時世、電車内で会話する人もとんと減っているので、よりクリアな音声で響き渡るまぁまぁなボリュームでの、小鳥のさえずりの様な「シモネタ!」。
こんな機会は滅多にないから観察させて頂こうと、楽しそうに喋るぷっくりした頬の横顔を視界の端に映して眺めた。
一見すると無邪気にも見える感じである。
だが確実に、他のメンバーの感じている気まずさを楽しんでいる。
下ネタと言うお気に入りに加えて、周囲が恥を感じていることが一層彼を興奮させるのかも知れない。
そして、欲望があるから下ネタについて発言すると言うよりも、下ネタに関してとにかく言い続けたいプログラムがダウンロードされてずっと動いているのを感じた。
欲望を持て、と言うプログラムの自動運転状態。
もう本人にも止められなくなっているのだろう。
どうにかして刺激しない様に話を変えようと四苦八苦している残りのお二人のことも、
「これはこれで学びなんだろうか、中々難しそうなチャレンジですね」
と、観察させて頂いた。
さて肝心の下ネタの内容だが、あまり詳しくは語られなかった。
自分が下ネタに夢中であること、そしてそれはヤバいのだと言うこと。
この二つが主である。下ネタの次位に「ヤバい」を連発していた。
知り得たホットな情報として挙げられるのは、彼らが行って来たらしい合宿で就寝前に、この下ネタ伝道師が言い放つお手本をみんなで復唱する謎の特訓が行われていたこと位だろうか。
最後まで大体のことをヤバいで片付けて勢いよく彼が電車を降りて行った後、残された二人はホッとした様子を見せてから「如何にあいつがヤバいか」の話で盛り上がっていた。
口に出すのは憚られる位に下品だからと言う意味でヤバいのと、
常軌を逸した振る舞いで何か恐ろしいと言う意味でヤバいのは、
当たり前だが、意味合いが全く違っている。
他にも「すごく良い」みたいな意味を持たせる場合もあり、皆様ご存知の様にヤバいは結構色んな使われ方をしている。
車内に居た他の乗客も残った二人に近い感じで何かをヤバいと感じたのか、終始彼らから視線を外して「そこに誰も居ないかの様に」振る舞っていたのが興味深かった。
ヤバいと褒め讃えることもあるので一概には言えないが、ヤバいからと言って見ない振りをして意識から切り離すと、そこには分断された祝えぬものが残る。
分断からは気づきも学びも生まれないが、そう言えば彼らの存在をないことにしていた人々は一体何をヤバいと感じていたのだろう。
ここに意識を向けて、面白いことが分かった。
ヒントは先程出て来た
欲望を持て、と言うプログラム
である。
長くなったのでそれについては来週記事に譲ることにする。
皆様も興味が湧かれたら、黙殺したくなる程一体何がヤバかったのかに意識を向けて見て頂きたい。
ばいばいで、ヤバいは片付く?
(2022/7/21)