《高さと長さ》
「あ!そう言えば、何でだ…」
不意に浮かんだ問いのお陰で、この日は昼過ぎからしばらく、行き交う人の足ばっかり見ていた宮司。
「この隙間って…?」
と、なったことから始まった。
どう見ても「中身の入ってない部分」である。
全ての男性の足元がこの様に長くのびのびになっている訳ではない。
スニーカーやサンダルは勿論、ビジネスシューズでも、長くない靴を履いている方は居る。
ビジネス、又はカジュアルな用途の革靴の一部で、この前へ前へ向かう「のびのび運動」が発生しているのだ。
と言っても、この意味についてはすぐに
「ああ、コテカみたいなもんか」
と、気がついた。
コテカは、勇気を象徴するものらしい。
勇気だけでなく、体の丈夫さとか、男性的な自信とか、色んな力が要りそうな格好ではある。
日本ではまずお目にかかれないこの姿。特定の部族間での行事にしか使わない装束、と言う訳ではなく、
国際的な改まった場所にも登場出来る模様。
前方に長めな靴達も、ビジネスの成功やモテを求める等の、気の張る場面に対応する為にテンションを上げてくれる“武器”と言える。
それに気づいた瞬間、更なる気づきが発生。
「男は前に、女は上に」
女性の足元で、先へ先へとのびている靴はまず見ない。
代わりに、上を目指して高さを増してくるハイヒールを履いて歩いている方はすぐに見つかる。
高さの女も、長さの男も、何というか歩き方が概ね「強い」感じがする。
勢いで乗り切らないと履きこなせないのが高長い靴達であり、そのことによって発生するアドレナリンの様なものが、これらを履く人々には必要なのじゃないだろうか。
卵が先か鶏かみたいになって来たが高長愛好家は、頭脳戦や心理戦を勝ち抜く為の鎧装束の一部として、歩き易さとはあまり結びつかない靴達の力を借りているのだ。
そう言えば、兜も動き易さと関係ない方向に可能性が広がっていたりする。
ボタンを押したらウサギが飛び出すなんて仕掛けがあるでなし、こんなので戦うとか出来たのだろうか。
前線に出る人用のものではない気がする。
今に集中する直接的な作業が必要で、心理戦だとかそんな駆け引きをしている場合じゃない人々の靴は、動き易そうな感じで先が丸い。
そう言えば、尖った長靴も見たことがない。
滑りやすい状況で、どこかに引っかかったりでもすれば即、すってんとひっくり返ることになるからか。
高さを求める靴は、古くは男女どちらも履いていたそうである。
それが20世紀になって、「高いヒールがあるのは女の靴」とイメージが定まったらしく、KuTooの下地になった不覚常識とかも割合最近のものだったのだ。
高さと女ががっぷりよつで付き合っている間に、男に長さの枷が迫って来たのが面白い。
自ら求めて履いている風でも、歩くのにかなりエネルギーが要りそうなのびっぷりは、枷と言える。
「我々にハイヒールを強制する限り、奴らの靴め、前に長くなれ」
そんな呪いが浮かんで笑ってしまったが、女に何か制限が課せられると別種の制限が男にも、と言うのは、良くある動き。
男女はどれだけ違う様でいても、分けることの出来ない一対の存在なのだ。
男がハイヒールを履いてみる試みがあったと聞いた。
女達が、あの唐辛子みたいに長細い靴を履いてダッシュしてみる試みだって、その内に起きても不思議ではない。
どちらも、お疲れ様。
(2019/7/18)