《罪探す人》
ある日の昼下がり、街の賑やかな所から一本奥まった裏通りを歩いていた時のこと。
少し先を同じ方に向かって歩いていた男性が、二人連れの警官に声をかけられて振り返るのが目に入った。
「何訊くの?」と興味が湧き、足を止めて耳を傾けたが声は届かず、質問の内容はさっぱり分からない。
男性の背中越しに警官の人達の表情を見ても、何の反応も返って来ない。
無視されると言うより、存在自体認識されていない感じ。
「じゃあ回って来るまでここに居るか。」
と携帯を見つつ、質問タイムが続く傍にしばらく待機していてふと、「その場に居れば順番に何か訊いてくれる訳ではない」ことに気がついた。
傍から見れば、単に職務質問されている人に興味津々の野次馬だろう。
こっちの視線に気がつかない人達に何か尋ねて貰えるはずもないし、諦めてその場を失礼することにした。
只、謎は残った。
ああ言う場面で
警官の人は一体
何を訊いてくれるのか?
それを訊きたい。が、職務質問は職務上必要があっての質問タイムな訳で、つまり仕事中。
わざわざ呼び止めて訊いたもんだかどうだか。
「暇そうな警官の人を見つけたら教えて貰おう」
と言う結論に至った。
これを始めとしてその週だけで三回、職務質問の場面に遭遇した。
興味が出たからだろうか。変わった引き寄せもあったものである。
二度目は四人の警官が割と分かり易く様子のおかしな人を取り囲み、三度目は三人の警官が連携して動き、中の一人が質問されてる男性のウエストポーチの中身を、笑顔で話しながら確認していた。
全く暇そうな人が居ない。
二度目に囲まれていた男性なんて、四人の視線を独り占めである。
だったらこっちに二人位くれてもいい様な気がするが、何しろどの警官の人にもこちらが全く気づかれない。
不覚時代から「じっと視線を送った相手には、離れていても大抵気がつかれる」と言うどうでもいい力を持っていたのだが、こと警官に関しては無力であることが分かった。
「警察官に人気ないなあ」と、警察限定で透明人間化と言う変な可能性に意識を向けたが、そんなことが起こる意味が分からない。
そう言えば、離れていても気づかれるなんて力が全体の役に立ったことって別になかった。
せいぜいが野球場で遠くにいるビール売りの人を呼ぶのに便利だった位で、これは全体一つの流れに全く関係がない。
なので、そんな余計な能力など虚空に還って既に無いのかも知れない。
必要なものが離れていたら自ら近付けばいいだけだし、
知りたいことがあったら知っている人との遭遇を待つより、
まず出来る範囲で調べてみればいい。
なかなか暇そうな警官に出会わないので「職務質問 訊かれること」で調べたら、何とその時によってまちまち。
要は警官の人が何にピンと来たのかがポイントで、それが犯罪か家出かでも質問内容が変わって来る。
そりゃそうだ、と納得した。
別に「休みの日は何してる?」とか訊いてくれるとも思っていなかったが、何で宮司が彼らの視界に入らないのかも、同時に何となく理解した。
警官が興味を抱きそうなものを、こちらが何も持ち合わせていないからだろう。
彼らの鋭いセンサーは、そんなことはお見通しなのだ。
実際、「どちらへ行かれるんですか?」みたいなトスをくれても打てるのは、
「お昼を食べたので腹ごなしに散歩です。これから本屋に行きます」
と言った、まるで締まらないヘニャ球。警察的には時間の無駄だろう。
そして、宮司を名乗る“これ”と不覚社会では、「罪」に対する認識が全く異なっていることも改めて実感した。
社会のルールを逸脱した行為や、罪つくりなんて言ったりする相手の心を揺るがし騒がせることを、「罪」と不覚の人々は呼ぶが、
罪の本質を観察すると「包み」そして「積み」が見えて来る。
本道を包み隠して知らん顔をし、
そして進化も昇華もない体験を繰り返して、
“積ん読状態”にしておくことだ。
そうした点では、警察の人達だって概ね罪人と言うことになるだろうから、そんな風にモノコトを映す眼の前には立ちたくないのかも知れない。
存在を無いことにされても、仕方がないのである。
問答無用の空間存在と、問いで罪を探す人々は、関わることがなかなか難しい。
だが、こちらには見えている。
ありがたく観察を続けさせて頂くことにする。
包んで積んでも、片付かない。
(2020/11/2)