《祝いの味》
世の中が、これまで経験したことのない雰囲気で年末年始を迎えようとしている今日この頃。
折角なのでこれまでにないことをして、しかもそれを楽しんでみようと支度を始めたものがある。
当宮には直接関係しない。宮司を名乗る“これ”の言ってみれば冬季自由研究みたいな試みである。それは、
知らないおせち作り
おせち料理の定番は全国で共通しているものが多いが、一部地域以外にはあまり知られていないものもある。
大抵は、地元の郷土料理だから作るもの。
その限定メニューを、特定の地域に思い入れのない端末が手作りしてみようと言う試み。
食べたことがないので出来映えの“及第点”みたいなものも分からない。
選び抜かれた素材で手間かけて完成させた料理を、ゆっくりと受け取る側に徹して店で振る舞われるのも楽しいもの。
その中でも殊に歓びに満ちた味わい深い料理を口にする機会がつい先日あり、「手で」「作る」と言うことに改めて興味が湧いたのもおせちチャレンジの理由の一つである。
全国定番メニューは簡単に取り寄せ出来るが、そうしたものにはない味わいにも興味がある。
気が向いたものからどんどん見切り発車で作ってみることにした。
家庭的とは程遠い宇宙のおじさんがする興味本位の手作りなので、味も見た目もどうなるやら掛け値なしの未知となる。
「えーと北海道が『氷頭なます』…。和歌山の『ぼうり』は里芋の親芋一個を皮ごと丸々煮ると…」
ダイナミック。
「京都の『棒鱈の煮物』は食べたことあるかも知れないな。何だろうこの石川の『べろべろ』って」
「島根や広島はワニ(鮫)の刺身、おっ『賀日あえ』って穴子の料理もあった。長崎は鯨…」
鯨は別にして氷頭も鮭の軟骨だし鱈も居るしで、何だか魚が多くなって来た。
これも必要だろうか。
「この徳島の『おでんぶ』は豆と根菜を煮ると…」
メニューがどんどん出て来る。
どれだけを作れるかは分からないが、
面白そうだしやれるだけやってみよう。
そこに、急に浮かんだビジョンがあった。
「あ!あいつをすっかり忘れてた!!」
春先にキャラ弁としてこの存在を作ってみようとしていたが、色んな仕事は降って来るわ、人と会う機会は減るわでツルっと忘れていた。
このタイミングでいきなり浮かんだことだし、これも何かの縁だろうか。
いろどり的におせちの中へ混ぜてみようとリストに加えることにした。
「沖縄は田芋と三枚肉とオードブル…、自由だな」
青とか紫のあいつが居る時点で、これ以上なり様がない位自由である。
カオス。
振る舞う予定の人々に、
「え、これ何?」
と、十中八九尋ねられるのであいつのこともおさらいしておこう、こりゃやることが山とあるぞと腕まくりした。
この冬、と言うか今年の春頃からずっと「出来ない」ことに意識が向きがちな不覚社会。
遠出だとか大勢で集合だとか、「おやめなさいよ」を言われることはまだまだ多い。
そうした世の中で意識が縮こまってしまわない様に、グッドセンスな皆様も「世情に関係なく出来る新しいこと」を発見し、是非チャレンジしてみて頂きたい。
長寿、夫婦円満、子孫繁栄、家内安全、無病息災、立身出世。
不覚ならではのこうした「現世利益!」感を差っ引いても有り余る、祝福がおせちには詰まっている。
元日の朝、表に出た人々が初日の出の美しさに感動し、
その一瞬だけは全ての願掛けを忘れて歓び祝いたくなる。
そうした時の、何も乞わない純粋な祝福に似ている。
歓び満ちる、祝いの味わい。
(2020/12/17)