《柔軟の課題》

 

先日、電車に乗っていた時にふと首が向きを変えたことで、急に視界に入った人々が居た。

 

小学生位のお嬢さん二人で、一人が席に座り、その前にもう一人が立って、元気よく手や体を動かしながら盛んに手話を交わしている。

 

その活気のある動きをじっと見ていて「え?手話…?学ぶの?」に尋ねてみたが、反応がない。

 

その内に、お嬢さんの一人が手にを持っているのに気がついた。

 

構って欲しいらしいもう片方のお嬢さんの相手をしながら、その本も読みたいらしく、手話、読書、手話、座るのと立つのを交代、読書、手話と、凄い速さで動いている

 

手なんかもう千手観音みたいだよと、こちらも首を色んな角度に動かしながら、彼女の手元にある本のタイトルを確認した。

 

みそ

 

「そうか、こっちか!」直ぐに了解し、その場で調べて同じものを読むことにした。

 

味噌は麹菌の力を借りて発酵と言う成長をする。

 

沢山集まって物の成熟を促し育てるちっちゃな存在に対し関心があったのと、今まで一度もタイトルに「みそ」と書かれた本を読んだことなどなかったからである。

 

一段落して顔を上げたら、お嬢さんの一人はもう電車を降りた後で、残った一人が真面目な顔でその「みそ」の本を読んでいた。

 

 

よく見たら「のひみつ」と添えられている。

 

味噌から何か秘密にされていることがあるとは全く想像もしなかったが、言われてみると味噌のことを知っている様で殆ど何も知らない気もする。

 

秘密にされていたのかも知れない。

 

増々興味湧き、とても楽しく読むことが出来た

 

味噌から受け取った学びは大変豊かなもので、お伝えするまでにこちらも熟成を必要とする。

 

 

三年も寝かせる気はないが、味噌から学びについて書かせて頂くのは後の機会に譲ることにする。

 

今回は本を読み進める中で「おや?成る程」となった発見から、今の今、変容の時代不覚の人々直面している課題が何であるかが明らかとなったのでそれについてご報告させて頂く。

 

尤も、課題は一つではない。

 

その中でも、味噌から「課題であり、求められている」と知れたのは、

 

「柔軟であること」

 

それは、信州味噌が全国的に知名度を拡げたある切っ掛けについて書かれた所で気づくことが出来た。

 

関東大震災によって瓦礫の山となった東京に、救援物資として信州から味噌が届けられた時に、その味評判になったのだと言う。

 

未曾有の災害、と形容される自然の大きな変化に人々が混乱し、恐怖し、疲れ果てていた所に届けられた、目に見えない位ちっちゃな生物達によって生かされている、つまりそれ自体“生きている”調味料

 

生き返る様な有難さで味わった人々も大勢居ただろう。

 

 

こうした支援は終戦の時期にも信州味噌の評判を一層高めたらしいが、あの時代の震災後に味噌を届けた所がポイントで、そこに柔軟さを感じる。

 

戦争は終わったら大体暫くは始まらないが、地震はそうじゃないからである。

 

現代より地震についての予測も難しかっただろうし、情報が瞬時に行き渡る訳でもない

 

その分、却って大胆に行動することが出来たのかも知れないが、「次にグラッと来る動きが、いつ何時起こるかも分からない」場所に出向いてでも必要な働きをするには、勇気だけでなく全体の流れに沿える柔軟さが求められる。

 

 

材料の生産や味噌の加工に適した気候であったのを理解して産業としての拡大を行ったことや、時代のニーズに合わせてかつて生糸の生産をしていた工場を活用して味噌工場にしたり等の動きも、実に柔軟

 

こうした柔軟さが、信州味噌の全国シェア1位と言う結果に結びついた様に感じる。

 

単なる売らんかなではなく、その時に必要なことを理解し行動を通じて全体を活かそうとする時、自らも自然と活きて来る

 

自他はないからである。

 

2020年は、「これまでの様には出来ない」状況が沢山生まれた。

 

 

それにより、柔軟に只今の時代に合わせて生活を変化させ始める人々と、「これまでやって来たこと」が通用しなくなっているのに苦しみながら忍耐に終始する人々の二手に分かれた。

 

この状況は罰ではないので、行儀よく耐えたら救われると言った展開はない

 

寧ろ、流れに逆らわずどれだけ見事に変われるか全母観察している。

 

それを味噌の話を通して、一層はっきりと感じることが出来た

 

これからこの流れは加速する。

やりたくてやって来た職業。

 

やりたくてやって来た生活様式。

 

やりたくてやって来た交際。

 

そうした去年までは普通に出来ていたものが暗礁に乗り上げた時、必要があれば時流に合ったり物にも替えられるか、と言うこと。

 

「冗談じゃない!金も時間もかけて来た自慢の船だぞ。

そこから飛んで来たヘリに跳びついて乗れだなんて、

何て酷いこと言うんだ!」

 

 

と、腹を立てたまま潮目変化も見ずに只、船を直して以前の航路に戻してくれと救済を待つ人々にとっては、この時代はどんどん「酷いじゃないか」と感じるものになって行くだろう。

 

今年も来年も展開を辛くする最も大きなポイント「頑なさ」である。

 

みそ位、やわらかく行こう。

(2020/11/30)