《山のあなたの》
「あ~、楽しかった」
本日記事にてご紹介するふろくをこしらえて、愉快な気分になった。
拙さと気楽さが生む、素朴なへっぽこ感に大満足。
「山、山かぁ。確かに色んなピークを人は好きに設定するもんな」と、ぼんやり意識を向けていて、ふと
“山のあなたの…”
と浮かんだ。
『山のあなた』は、上田敏の訳したカール・ブッセの詩。
みんながみんな知ってるもんでもないが、割合に有名な詩なのでどこかで目にしたことのある方もおられるだろう。
“山のあなたの 空遠く
「幸」住むと 人のいふ
噫われひとと 尋めゆきて
涙さしぐみ かへりきぬ
山のあなたに なほ遠く
「幸」住むと 人のいふ”
山のずっと彼方に「幸」があると人が言うので尋ねて行き、見つからず涙ぐんで帰って来た。
それでもあの山の、なお彼方には「幸せ」があると、世の人々は語り伝え続けるのだ。
こんな感じの意味である。
ここで言う「幸」とは人の望みが叶っている場所、理想郷と言える。
「山のあなたの」の「あなた」とは遠く向こうの、つまり「彼方」と意味は大体同じなのだが、意識に響かせた時や実際に口から発した時の、音の感触ははっきりと違っている。
音を味わうと山の「かなた」より「あなた」の方がしっくり来る。
そして「あなた」には、「YOU」の意味もある。
あなたと信じたものが定めた意識領域を越えずして戻り来れば、
涙を浮かべて遠くにあるだろう幸いを乞うばかりとなるのだ
と、この詩は教えてくれる。
作者や訳者がどこまで真理に気づいていたのかは分からないが、こうした重要なメッセージを個の「俺が書いたもんね!」の鼻息で乱さずに表してくれているのは本当に有難い。
力を十分に自覚しながら、責任は負えど才を誇らず、純粋に、中立に受け取って書く。
不覚に在って、中々出来ることではない。
幸いとは、さきわい。至福と言う全体から、瞬間の形で分かれた輝きのひとひらだ。
変容なしに山のあなたを欲しがることは、
鳥を生まずに羽根を欲しがることに同じ。
意識が盛り上げた馴染みの山を巡るだけの周遊であれば、幸い住むとか言う空は変わることなく遠いままなのだ。
未踏の地に気がつこう。
(2020/9/3)
8・9月のふろく
《こだわりを外したいのは山々メモ》
宝箱を発見するには、関心を向けないで来たものは何だろうかと探すより、これまで関心を持っていたものをまず書き出して、それらに「含まれないもの」は何かと意識を向けてみる方が行い易くなります。
左から右に沢山並んだ色とりどりの山に、関心を向けて来たもの、好んで来たもの、親しんで来たもの等を自由にお書き下さい。
あなたと信じて来た存在が意識に作った沢山の山場、“あなた連峰”を俯瞰して眺めることが出来ます。
山々をじっくり観察した上で、そこに含まれないものを一つ見つけて、一番右の岩山、見落とし山にお書き下さい。
山にたなびく黄色い雲には、この発見したものに感じる「輝いている点」や「祝福したい点」を見つけてお書き下さい。
これが「宝箱の鍵」となります。
《宝箱開封メモ》
拘りの山々を通過して出会った、見落とし山に書いたものについて、出来る限り詳しく左側に書き込み、観察なさって下さい。
それによって発見出来たこと、理解が深まったこと、内なる変化を感じたこと等を、宝箱の開いた右側にお書き下さい。
誰にも奪うことの出来ない宝です。
存分に活かして、本道をお進み下さい。
雲の向こうに新たな見落とし山が出て来ましたら、どんどんメモを追加して宝を開封なさって下さい。