《大掃除》
「日本を今一度せんたくいたし申候事」
垢にまみれたこの国を、サッパリと洗い上げる。
その実行が自身にとっての神願であると、姉に向けた手紙で書き記し、坂本龍馬が遺したこの言葉。
汚れ、つまりもう必要なくなった古いデータを片付けて、まっさらな新しい物理次元を開く。
確かに大変重要なことではある。
現代に至るまで、冒頭の言葉が有名であり続けているのも、「汚れ落としを求める思い」が人々の中に変わらずあるからだ。
只、変容の時代に「汚れ物発見!即洗濯!!」とするのはいささか性急となる。
龍馬のあの発言は、
ポッケのない時代の端末ならではのもの
である。
人の意識の中にあるポッケ、正しく言えばポケットには、当の本人でさえしまったことを忘れている、様々なものが詰め込まれたまんまになっている。
「ポケット 洗濯 子供」で調べてみると、多いのが「ティッシュ」。
他にも「たまごっち」「飴」「ドングリ」「枝」「砂」「文具」「DSのソフト」「石」「虫」などなど。
虫はダンゴ虫とムカデについての記事を多く見た。
一体どこで出会うのか。
大人だと「お金」「タバコ」「免許証」「ネジ」「ツケ睫毛」「オムツ」「携帯」など。
もう、何でもあり。
こうした物達と全自動洗濯機との出会いが、どう言った事態をもたらすかを当然に龍馬は知らない。
まぁ知らせた所で洗濯機に向けて湧く興味が大き過ぎて、「こう使ったらどうなる」とか、その辺はすっ飛ばすかも知れない。
残された資料を見る限り、結構フィーリングで生きていた端末である。
そして激しく生きてもいた。
先の有名な言葉も、それが書かれた手紙の前に注目すると、
「姦吏を一事に軍いたし打殺」
(敵に通じた悪い役人を仲間と協力して打殺し)
とある。
日本全体の洗濯とは、彼が「汚れ」と認識した者達を抹殺してから成される。
割かし物騒なクリーニングである。
変容の時代には、こうしたスタイルで為されるお洗濯の出番は既にない。
彼がおよそ知り得なかったこと・出来なかったことを、現代に生きる皆様は当然に知り、そして体験出来ている。
龍馬の様に世に知られた存在も、偉人扱いして持ち上げたままにせず、「その時代を懸命に生きた先輩の一人」として感謝し、彼に出来なかったことをするのが真の供養となる。
することは沢山あるが、さしあたってはお洗濯前にポッケを探って、何か入ってたらちゃんと出すこと。
意識のポッケに入れっぱなしのものがあると、思いもかけない広がり方をしたりする。
それを「ティッシュを洗濯した」人々の体験談で知ることが出来た。
乾いている時には、何の邪魔にもならない、他愛もないもの。
ところがひと度水と共に撹拌すると、それは一気に広がりあらゆる場所にへばり付く。
お洗濯の前に、ポッケのお掃除。
意識の丸洗いの前にも、ポッケのお掃除。
日本の洗濯の前に、まず自らを大掃除。
順を追ってこそ、真のスッキリが実現する。
虫でも砂でも、先に出す勇気。
(2018/12/17)