《ナルシス・トラップ》

 

「自分を好きになりたい」


「自分を大切に」

 

不覚社会では一般に素敵なこととされるフレーズ達である。


そして

「難しいけど頑張らなきゃね」

 


と、ちょっぴり理想めいたニュアンスも含んでいる。

実際は

 

「自分を好きになれない所は一杯あるし」

 

「自分を褒めることはすぐ忘れるし」

 

「自分を大切にするのは後回しで、周囲のことを優先してしまう」

 

 

 

 

と言った調子。そして、


「反省し、思いを新たにする自分」


「何でかそれを忘れる自分」


とを、交互に行ったり来たりする。

 

 

改めて申し上げる。

 

不覚に在って「自分」と認識しているのは、

 

「自・分割意識」

 

のことである。

 

人型生命体と言う、一つで既に夫婦ものである存在の、亭主の方だけを指して「オレ!オレ!」と言っているのだ。

 

 

元祖オレオレの方は「母さん助けて詐欺」や「電話de詐欺」等の微妙な新名称があれこれ出た後、何となく「振り込め詐欺の一種」に落ち着いた。

 

人型生命体丸ごとについての話に、分割意識のことのみを指して「俺」と言ってることを「オレオレ詐欺と呼んでも良いのではないだろうか。

 

分割意識がそれのみで人型生命体を騙るなどとは実際、詐欺の様なものだ。

 

「自分大好き」「褒め讃えて」、常日頃「他より優先して大事にしている」者も、進化変容には遠い。

 

実際、コンプレックス多めの端末より、ナルシス傾向の強い端末の方が遠い様に感じる。

 

 

大切で大好きな自分様が、物理次元の中で浮かび上がってしまっている状態。

 

全一からどんどん遠のいて行く。

 

「自分を愛し、イキイキする」は、不覚社会では“立派な行い”。

 

その愛柄のラッピングを剥けば「愛し、イキイキする」の中身が「執着し、興奮する」だなんてことは誰も指摘しない。

 


それぞれが、自ら気づき認めて行く他ないのだ。

 

神話のナルシスは、アフロディーテの怒りを買って、

 

「ナルシスを愛する者を、ナルシス自身は愛せない」

 

と言う呪いをかけられる。

 

「愛の神が呪いをかける?その愛って愛じゃないだろう、じゃあ愛の神じゃないじゃないか」

 

 

と、神話を読みなおして鼻に皺を寄せたが、女神を怒らせる美少年と言うのも中々な個性的な物件である。

 

二十歳(はたち)以上はBBA」とでも言ったのだろうか。

 

怖れを知らぬ美少年は、彼の言葉をそのまま繰り返すだけの妖精エコーのことも「退屈だ」と、冷たくあしらい見捨てる。

 

エコーを観察していて、分割意識の意を受けて健気にそれを物理次元に現し続ける御神体の姿を感じた。

 

 

ナルシスに去られたエコーは悲しみのあまり、その姿を失って木霊となる。


それに怒った義憤の女神ネメシスから、ナルシスは更に呪いをかけられる。

 

他を愛せぬまま、只、自のみを熱烈に愛する。

 

このNewな追い呪いをかけられて、ナルシスの自己への執着肥大

 

水を飲もうと屈み込んだ拍子に、泉の中に映っていた自らに夢中になり、動けなくなってそのまま死んだ。

 

 

水の中の美少年に見蕩れて、他のことが手に付かず痩せ衰えて死んだとも、口づけしようと水に落ちてそのまま死んだとも伝えられる。

 

その場所に水仙の花が咲いたので、水仙のことをヨーロッパではナルシスと呼ぶ。

 

水仙にこの顛末を言ったらビックリするだろう。

 

彼らは只、春の訪れを告げながら明るくきっぱりした黄色で咲く可憐な花だからだ。

 

「えぇ〜!

ま、いっか」

 

の様な反応が返るかも知れない。


自然は総じて、あっさりしている。

 

粘着質なのは、意識達だけだ。

 

好いていようが嫌っていようが、自分と信じた存在執心するなら、結局全体ひとつの状態には還らない。

 

例えその罠が、どれだけの興奮をくれたとしても。

 

 

 

「自分大好きハッピーハッピーだから

 全体ひとつでハッピーハッピーで、

 変容するのにも、もうこれでOKですよね?」

 

と、おなりの方が当宮境内に今更居られるかは分からないが、いらっしゃるならハッピーは良いとして

 

そのハッピーな自分さん以外の周囲を

 

「それよりは一段劣る、重要じゃないもの」

 

 

と見ていないかどうか

 

の問いを挙げさせて頂く。

 

コンプレックスと向き合う者達に背中を見せながら不覚社会をスイスイと泳ぎ行く、ハッピーハッピーな面々。

 

彼らがトップ集団ではなく周回遅れだったことも、変容の時代には様々なかたちで自然と明らかとなる。

 

自然になるから、放っとこう。

(2018/12/3)