《役を果たす》
急な坂になった細い路地で。
川にかかる揺れる吊り橋で。
集まって祭で盛り上がりたかっただけの人々が、まとめて物理次元を去ることが立て続けに起きた。
その報せにまず分割意識と運命を共にした御神体達の姿が浮かび、静かに天意からの愛を送った。
次に浮かんだのは、数百人分の生き続けたなら果たしていただろう役割は何処に行くのかと言うことだった。
これには間を置かず答が来た。
“速やかに他の端末に移行する”
その速度、その滑らかさまで、上は伝えて来た。
全体一つの流れには、悪意も善意もない。
何か罰的な感じで、誰かを選んでこの世から消したりはしない。
何か褒美や加護的な感じで、誰かを選んでこの世に残したりもしない。
男女どちらでも、どんな肌の色でも、何歳でも、全く関係ない。
あるのは、同じいのちと、それぞれの役割。
只それだけである。
人間から見ると、立て続けに起きた大量死は相当ショックな出来事として映るだろう。
そのショックは「今、生きている」と言う、普段ならそれがどうしたと流してしまいそうな感覚を、鮮明に沸き上がらせる。
沸き上がったものを、無事であることの安堵に結びつける者も居るだろう。
ほんのりとした加護を思い描いて優越に結びつける者も居るだろう。
そうした者達とは別に、
去った人々によって果たされることのなかった役割を思い、
それが自らの果たす役割と何ら変わりのないことを思い、
「今、生きている。では、何を成すか」
と、自身の行動に結びつける者も居る。
「思う」と言う意識の動きが、本当に必要なのはこうした時である。
それぞれの結びつけは、それぞれに相応しい果実を生らせるだろう。
命一杯、精一杯。
巡り来る役を果たし、全体一つで生きて行く。
その意志で歩む時、意識は澄み渡り、世界は晴れ晴れと天意からの愛で輝くのだ。
惜しみなく果たすのみ。
(2022/11/4)