《ヒトコワ発見記》
“こうしたものに触れる機会はあまりないと、現代の怖い話を集めた本を手に取った”
以前の記事にてそう申し上げたが、この滑り込み夏体験が思いもよらぬ新しい発見の呼び水となってくれた。
幽霊や化け物でなく生身の人間からもたらされる恐怖を、「ヒトコワ」と呼ぶのだそうである。
手に取ったのは、こうしたものが多く書かれている本だった。
読んでみるとありがちな怪談のオチ、「人間が一番おっかない」みたいにちょっと笑いを交えて話を締めくくる感じではなかった。
ヒトコワは何とも言えぬ不穏な感じを残したまま、読み手もその場に放り出されて終わったりする。
こちらはポカーンとなるばかりだが、覚めない状態だとそれが大変不気味であり、癖になる味として感じられるらしい。
新しい発見はこの本の終盤で、筆者と或る人物との関わりが書かれている部分で起きた。
初めは怪談の元ネタとなる話題の提供者であったその人物は、「霊感、或いは特殊能力的なものを持っている」と、自己紹介をしたらしい。
霊感、或いは特殊能力的なもの
随分ざっくりしている。
それを持つ故に体験した様々な怪異エピソードを提供して下さったそうだが、或る時から挙動不審が目立つ様になって行ったと言う。
陽気でお喋りが大好きだった人が、彼にしか見ることの出来ない黒い人影に怯え始める。
気を静める為だろうか酒量をどんどん増やして行った結果、突然音信が途絶え、やがて大怪我をして入院しているので見舞いに来て欲しいとの報せが本人から入る。
会いに行ってみると確かに事故にでも遭った様な状態。
怪我をした時の記憶は一切なく、病院にまでやって来る黒い影に恐怖する日々が続いているらしい。
筆者は転院を勧め、当人も思う所があったのか後日、精神科病院へ移ったから見舞いに来て欲しいと再び連絡が来る。
その後数回の見舞いを通して、二人のやり取りや他の入院患者の様子が記されて行く。
読みながら「へぇー!そうなのか!」と、目を丸くしたのがエピローグに書かれた、寛解後に地方の施設に移ることになった彼と、最後の見舞いに訪れた筆者とで会話する場面である。
本人曰く霊感があるらしいことから目に見えないはずのものが見えたり、不思議な体験も数多くしていて、それにまつわる話を提供してくれたこと。
他の入院患者達についての驚く様なエピソードも提供してくれたこと。
筆者がそれらに感謝していると述べた後の、彼との会話を引用してみる。
“「ただ、私はあなたの語ってくれた突拍子も無い不思議な話って、やっぱり統合失調症から来るものなのかなと思っています。
あなたは自分自身の体験した不思議な出来事についてどう考えていますか?」
そう聞いてみると、彼は
「俺は自分に霊感があるって信じてるよ。
誰だって精神病の患者だって言われて楽しく人生を送れるわけないだろ。
君は普通に精神疾患とか統合失調症とか言えるけれども、言われた側の身になってみろよ。
発症しても人生は続くんだぜ。
だから自分が病気だって認識するより、霊感があったり特殊な能力があるから不思議な体験をするって信じて生きた方が人生前向きに楽しくやれるんだよ。
話を評価してもらって君のように足繫く通ってくれる人もいるし」
彼は無感情に言い切った。”
新しい発見はこの部分を読んで起き、そこから波の様に幾つもの気づきが連続して起こった。
霊感とか、特殊な能力とか、不思議な出来事とか、所謂「スピリチュアル」的なものを好む人々には馴染み深いであろう、そして魅力的でもあるのだろう言葉が並んでいる。
こうした“稀なる力”とされるものに、心惹かれたことのある方も居られるかも知れない。
長くなったので、起きた発見や気づきについては次週に書かせて頂くことにする。
さて、何が新しい発見だったのか。
気の向かれた方は、要約や引用の部分をじっくりと観察なさってみて頂きたい。
失調してても、出来ること。
(2022/9/8)